2015年2月19日木曜日

さようなら、シーナ①

夕方5時が近づいていた。
シーナのお通夜が始まる時間だ。

仕事の手をとめ、窓の外を見る。
雨は降っているが、どうやら雪にはならないらしい。

何を着ていこうか。
やはり喪服だろうか。
さんざん迷って、黒のセーターにグレーのワンピース。
その上に黒いジャケットを羽織った。

下北沢の式場までは歩いてゆく。

いつもの道が、寂しい道に変わる。

昨年の秋も、こうして藤井裕さんのお通夜に向かったことを思い出す。



式場の手前で、関係者の方はお進みください。
ファンの方はこちらにお並びください、と係の男性が誘導していた。

ちょっと迷ったが、素直にファンの列に並ぶ。

列は式場の隣の駐車場に、つづら折で4列。

会社の帰りなのか、鮮やかなマフラーの人、シックなコートの人もぽつぽつ。
あとは黒い服と傘が並ぶ。

雨がばらばらと音をたてて傘に落ち
時に強く冷たい風が吹き付ける。
駐車場のライトが
雨粒を映し出している。
ほのかにお香の匂いがする。

いまどきはこんな時は、スマホをいじるのが常なのだろうが
傘で手がふさがっていることもあってか、ほとんどの人はじっと前を向いて並んでいる。

その時間は、一人で来ている人がほとんどだったため
誘導する声と、雨の音だけが聞こえている。

事務所のスタッフの方なのだろうか。
誘導する男性の案内を持つ手が震えていた。
最初は、「ファン参列」という紙が風に揺れているのだと思ったのだが
どうもそうではないらしい。

誰かが携帯カイロを渡そうとすると
「ありがとうございます。先ほどから頂いてポケットがぱんぱんなんです」
と、震えていた男性は丁寧に頭を下げた。



つづら折りが少しずつ進み、また止まる。

忘れた頃にまた進み、また止まる。

W.C.カラスの歌う「One Kind Faver」が頭をよぎる。

 黒いリムジンの後にバスが続く。
 長い長い列が続く。後から後から続く列。
 風向きは悪いままさ。

雨に濡れ、ついに冷たくなってきた手をこすりながら
ブラインド・レモン・ジェファースンは凍えて死んだんだったなぁと
脈絡もなく考える。

シーナに、ブルースのどんなところが好きなのか
お話を聞くべきだったと、後悔する。

1時間ばかり経っただろうか。
ついに式場へと進むときがきた。













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