2014年2月27日木曜日

車内点検

朝から取材。インタビュー3名。

ハラジュクから山手線に乗り込むと
中央のつり革あたり、ぽっかり席が空いているのが見える。

スマホをいじるおねえさんの肩越しに、ちょっとのぞきこむと
若い男性が、右90度に身体を折り曲げ
座席にアタマを埋めて寝ていた。

醜態を敬遠してか、彼の左側にも誰も座らない。
都合、3席分、彼の物となっている。

醜態と書いたが、本人はとても気持ちよさそうである。

どっと乗客が入れ替わった駅があり、
男性の前に仕方なく立っていたおねえさんたちも皆降りたので
私は、彼の左隣に座ることとする。

座ってみると、くだんの男性は酒臭かった。

男性は片方の手を膝の上に置いたリュックに突っ込んでいる。

始発では見ない光景でもないが
ひょっとしたら山手線を何周りかしたのだろうか。

うむ。酒臭い。

こちらに寄りかかられるよりは良いが
確かに心地よいものではない。



壊れているとわかって橋を渡るクセ。

危ないかもと知っていながら近寄ってしまうクセ。


五反田に着くと
ホームにいた駅員さんが直角寝の彼に気づき
「車内点検」
とアナウンスして、飛び乗ってきた。

「起きて!起きて!」
とむりやり上体を起こす。
唇に半笑いを浮かべ、薄めを開ける男性。
よく見ると、なかなか爽やかそうなお兄さんである。
「寝ちゃダメだよ」
駅員は両肩を揺すった。

酒臭さが私の方に近づいた。

「車内点検終了~」

車内点検って、忘れ物の捜索とかじゃなくて
こういうとき使うのね。

男性は半目のまま、現と夢を彷徨っているようだった。

うむむ、酒臭い。

しかし、少しばかり現に引っ張られたか
次の駅で、ふらふらと立ち上がると
ふらふらと降りていった。

酒臭さが遠ざかっていく。

そして何も知らない女性が、彼のいた席に座った。

山手線。ぐるぐる、回ってるだけなんだなぁ、と思う。



しかし。

彼が去ったことで、私は自分の問題を思い出した。

どうも足もとに違和感があるなと思ったら
右の靴底がぺらりと剥がれかかっているのであった。

靴を脱いであがる取材もあり。

それでは失礼しますと会釈して
靴底のみを置いていくような醜態はさらしてはならない。

どこぞで接着剤でも買ってと思ったが
結局、広報の担当者と昼ごはんもあわててとったほどで
コンビニに寄る間もなかった。

なんとかごまかし、ごまかし、一日を過ごす。

壊れかかった靴を履くのはやめよう。


2014年2月26日水曜日

株主。

地下鉄。

服装は垢抜けないが
心配ごとなんて一つもない、といった調子のよく笑う中年男女。
たぶん夫婦。
ぱんぱんに膨らんだかばんを抱えている。

ずっとしゃべっている。

もう一人、息子なのか
隣り合わせて座った30代の男性は
しゃべらず時々うなずくのみ。

女性、ごそごそとリュックの中から
ハガキを取り出す。
何枚も。


間に合うかねえ、と言っている。

知り合いの個展か演奏会か
なにかの招待券か。

しかし、そのうち合点がいった。

そうか株主総会だ。
あちこちをはしごするのだろう。

「あそこの株を500株持っていると
○○に招待してくれるんだ」

おじさんが笑う。
雲リひとつなくうれしそうだ。

お金に心配のない人たちなのだろう。




JRに乗り換え、2時間打合せ。
寄り道することもなく、また電車に乗る。
地下鉄の連絡が悪かったので、JRで。

川を渡る鉄橋に注ぐ日ざしが力強くなってきた。

小さいころから、電車が鉄橋を渡るときが好きだった。
今も必ず顔を上げ、窓の外を見る。

そこには必ず川が流れている。
そして渡ればその向こうは違うまち。

2度電車を乗り継いで戻り、校正を配ると
ひといきつきたくなり
夕飯は、Yくんと近所でラーメン。
初めて汁なしラーメンを頼んでいた。

ラーメン屋に行くと、いつも以上にしゃべるYくん。
ヨーロッパの言語の話など。
英語の読み書きはもう十分だが
会話を磨きたいそうだ。


2014年2月24日月曜日

権利と自由とはじらいと

午前中、原稿の受け渡し。
午後、六本木事務所にて原稿整理、発注。
意外と冷え込んでおり、手指が冷たい。

担当のTさんとの雑談で
トンカツやで、ごはんのおかわりを3杯した
老婦人の話。

そのひと、2杯目と3杯目はテーブルの下にある
タッパーだか袋にごはんを入れたそう。

ちょっとショック受ける。

トンカツ屋さんには、
ごはん、キャベツ、味噌汁のおかわり自由ですと
うたっているところもあるが
これは、権利を主張されたらそれまでなのだろうか。

権利と自由と、はじらいと。

流れで。

ホテルのシャンプーやリンスを
小瓶に詰め替えて持って帰る人の話。

若い女性が
ドラッグストアの化粧品コーナーで
思いっきり化粧しているのも
あまり気持ちのいいものではない。

そういう女性、偏見かもしれないが
だいたい意固地な表情をしている気がする。

何かをまとっている。武装している。

電車の中で化粧している女性の表情も哀れだ。
私は、私のことしか考えていないという空気が
周りを陰鬱なものにする。

若い女性なら百歩も譲るが
親の年齢であってもおかしくない女性が
同じようにコンパクトを広げ、顔作りに余年がないのは
情けない。

自由と、はじらいと。

実家に帰ったとき驚いたのは
Kルディの無料コーヒーサービスに
列を成していたことだ。

ただのコーヒー飲んでくかと老夫婦が言いながら
列に並び、店に入るでもない。

やっちゃいけないことなんて
そう多くない。
私自身そうとうすっとこどっこいだ。

ただ、小さな手鏡でひと目をしのんで
ちょっと化粧の崩れを気にするような
奥ゆかしさにあこがれる。










2014年2月23日日曜日

日曜の夜とライヴ

夕方から三鷹のバイユーゲイトへ
ゴトウゆうぞうさんのライヴ。
今日はバンドではなくトランペットの寺内さんとのソロ。

今週は何かと忙しいので
以前であれば大事をとって
休養していたところ
今日は今日、明日は明日というモードであり
でかける。

確かに数年前はこーねんきゆえか
月に数度、どうにも起き上がれない日があったものだが
今はただ体力が衰えているだけ。

左肩、あいかわらず痛い。

バイユーではMチケンさん、Sモリさんと同じテーブル。
盛況だ。食べたかった高知のおでんを注文する。
まずはこの冬の小さな目標を達成。
こうした外からはなんでもないような
やりたかったことのクリアが
大事なのだよ。

わたしは不自由であり、自由だ。


ゆうぞうさんといえば
ブルース&ソウル・カーニバルの司会者として有名だが
ミュージシャンとしても実に繊細で魅力的な人。
ギター、親指ピアノ、パーカッション、ハーモニカと
多彩に操る。

アルバム『がんばれよ』は、今でもよく聞く。

オリジナル以外に、カヴァー曲も多いのだが
フォークからブルースからロックからその選曲がいい。

もちろん河内音頭、沖縄の歌まで。
日本のルーツ・ミュージックの継承者だと思う。
この日も渡さんの「夜汽車のブルース」から。

ゲストで参加した元ローザ・ルクセンブルク、今マチルダ・ロドリゲス玉城宏志さんの
ギター、艶っぽくて、まったく気負ったところがなくて
よかったなぁ。

ゆうぞうさんとは同郷、同じ大学なんだそうだ。

ちょっとお話させていただいたけど
とても気さくな方で驚いた。

ライヴ終わり、
CDを作っても売上げが芳しくない話。
ブルースカーニバルの話。
いのうえさんというお客さん
ブルースを盛り上げたいと笑顔で語ってくださる。
こういう方がいるとうれしい。

T井さん、来る。
結局、ほかのお客さんが帰ってからもしばらくうだうだ。
ともすれば、終電なんかいいか?てな気持ちになるところ
しっかと帰る。

駅に着いてYくんに電話。コンビニとスーパーに寄る。
やっぱり不自由なのか。