発売されたころは、大瀧さんの『ロングバケーション』が
あまり好きになれなかった。
あのころ、ブルースに夢中だった、というだけじゃない。
軽い、というのか心地よすぎて
しっくりこなかったのである。
さすがに最近は楽しんで聴いているけれど
でも今日はじめて、あぁこういうことかと気づく瞬間があった。
それも電車が江戸川や荒川を渡るとき。
都会にしては少しばかり広い空と、
きらきらきらきら冬の太陽にきらめく川面と、
高速道路と。
その時、ヘッドフォンから聞こえていたのは「カナリア諸島にて」だった。
南洋の楽園とは似ても似つかない光景なのだけれど
私には、遠い楽園が束の間見えた気がしたのだ。
手の届かない楽園だ。
ぼくはぼくの岸辺で生きていく、それだけという言葉が
いつになく、心の中にさわさわーっと広がってせつなくなった。
当時、この曲はシングルのB面。A面は「君は天然色」だった。
思い出はモノクローム。
色をつけるのは結局自分。
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